約物は半角か、全角か——組版が黙って決めていること
句読点や括弧は、字身の全部を使うわけではない。それでも全角の枠を持って歩くので、行の中に説明のつかない空きが生まれる。禁則処理と字詰めは、その空きをどう配るかという一つの問題の裏表である。
日本語の組版で、最初につまずくのは文字ではなく約物である。句読点、括弧、中黒——読むときには意識しない、あの小さな記号たちだ。
漢字も仮名も、全角の枠をきっちり使う。ところが「。」は、枠の左下の四分の一しか使っていない。残りの四分の三は空白のまま、行の中を一緒に流れていく。
空きはどこから来るのか
一行の長さを 、字送りを 、その行に含まれる約物の数を とすると、意図しない空きの合計はおおよそ
はその約物が実際に使っている面積の比率で、句点なら である。
つまり約物が四つ並べば、字一つぶんの穴が行のどこかに開いている ことになる。「」。と続く箇所が読みにくいのは、書き手の文章のせいではない。
| 約物 | 全角での使用率 | 詰めるべきか |
|---|---|---|
| 。、 | 約 0.25 | 後ろを半角に |
| 「」() | 約 0.5 | 前後どちらか一方 |
| ・ | 約 0.5 | 原則そのまま |
| ——(ダッシュ) | 1.0 | 詰めない |
Warning
「約物を全部半角にする」は解決ではない。句点のうしろの空きは文の切れ目という情報であって、詰めきると文章が一続きの塊になる。
禁則処理は空きの配り方の問題
行頭に「。」が来てはいけない、行末に「「」が来てはいけない——禁則処理はふつう禁止事項のリストとして説明される。
実際にやっているのは違う。禁則とは、はみ出した一文字ぶんの空きを、どの字間に配るかという計算である。
追い込み(前の行に詰める)なら、その行の字間がわずかに狭くなる。追い出し(次の行へ送る)なら、前の行に一文字ぶんの空きが増える。どちらにしても、空きは消えない。移動するだけだ。
はその行の文字数。三十字の行なら一字あたり約三パーセントの詰め——ほとんど見えない。十五字の行なら七パーセント近くなり、その行だけ色が濃く見える。
Tip
短い行長で禁則処理を効かせると、行ごとに濃さが変わって縞になる。段組みの幅を決めるとき、禁則のことまで考えている設計はそう多くない。
ルビという例外
ルビは行間を食う。しかも、ルビのある行だけが食うので、行送りを固定していないページでは、そこだけ行が離れる。
対策は一つしかない。行送りをルビのぶんまで見込んで最初から決めておくことだ。本文が 16px、行送り 1.8 なら、ルビ付きの行のために必要なのはおおよそ
本文一つぶん、ルビ半分、そして息をつくぶんの余白。この式が偶然ぴったりなのは偶然ではなく、日本語の行送りが 1.75 から 1.8 に落ち着いた理由そのものである。